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従業員19人の会社が、全従業員にAI研修を行い、月1回の会議で全員がAIの活用例を発表しています。
東京都のリフォーム会社です。現場調査の打合せを録音し、AIに要約させて議事録にしています。従来は複写式のシートに手書きし、後から編集して約1時間かかっていました。それが即時に変わったと、リフォーム産業新聞1695号9面(2026年5月4日発行)が報じています。
建築・リフォーム会社向けにAI導入支援を行う株式会社Polestar AIの深瀬雅己です。中小企業のAI導入で先に決まっているのは、道具の名前ではありません。
この記事は、従業員50名以下の建築・リフォーム会社で、会社としてのAI活用を進めたい役員の方に向けて書いています。社員は個人でChatGPTを使っている。それでも会社の取り組みにはなっていない。社長に出す説明も、まだ組み立てられていません。そういう段階です。推進を兼務している担当者の事情は、その方に何を渡すかという形で後半に書きます。
住宅リフォーム市場は2025年に7兆5,119億円と推計されています(矢野経済研究所調べ)。市場そのものは縮んでいません。それでも人は増えない。今の人数のまま回すための話として読んでください。
この記事で分かることは、5つです。
- 道具を選ぶ前に決める3つ(どの作業か・誰が最後に確認するか・いつ見直すか)
- 専任もIT担当もいない会社で、誰が段取りを持つのか
- 同じ規模の会社が、どの作業をどの順序で変えたのか(業界紙で報じられた例)
- 費用を、利用料以外のどこで見るのか
- 始める前に記録しておく3つの数字と、社長に説明する順番
先に、この記事が扱わない範囲を書きます。 業種別の活用例の一覧と、ツールの比較表は作りません。補助金の金額・補助率・申請の時期も扱いません。制度は公募ごとに条件が変わるので、金額を書くとすぐ古くなります。「AIとは何か」という言葉の説明も省きます。それを探している方には、拍子抜けの記事になると思います。
中小企業のAI導入は、ツールを選ぶ前に3つを決める
決めるのは3つです。どの作業か。誰が最後に確認するか。いつ見直すか。
この3つが空のまま道具を選ぶと、契約の日が先に来ます。使う場面が決まっていないので、アカウントだけが配られて終わります。
どの作業か=1つの部署の、1工程まで下ろす
「全社で使えるもの」を探すと、候補が広がって決まりません。下ろすのは、1つの部署の1工程までです。「経理の業務」ではなく「スキャンした請求書の名前を直す作業」の単位です。
選ぶときの条件と、建築・リフォーム会社での候補の挙げ方は、AI導入は何から始めるかに書きました。この記事で役員の方に決めていただきたいのは、1工程まで下りているかどうかの線だけです。下りていない企画は、社長に出しても「で、何をするの」で止まります。
誰が最後に確認するか=AIが出したものを人が見る場所
任せるのは、記録・要約・拾い出し・下書きまでです。判断・送信・発注・支払いは人が持ちます。
確認する人が決まっていないと、誤りが出たときに誰の担当でもなくなります。私はここで実際に失敗しているので、後の章に書きます。
役員の方に特にお伝えしたいのは、この確認の工程が社長の仕事になりやすいことです。最後の1工程だけなら社長が持てます。試す段取りまで社長が持つと、止まります。
いつ見直すか=やめる・広げるを決める日
2週間後、4週間後と、日付を先に入れます。その日に、やめるか広げるかを決めます。
やめる条件を先に決めておくと、社長への説明が1つ軽くなります。「合わなければこの日でやめます」と言えるからです。
見直す日がないと、2つのどちらかになります。誰も使っていないのに契約が残るか、使っている人の実感だけで続くか。どちらも、次の社内説明に使える材料が残りません。
社員が個人で使っているのに会社の取り組みにならない段階かどうかは、社長だけがAIを使っている段階の見分け方に書きました。経営者個人はChatGPTを使っていても、社内への浸透は少ないという報告が業界紙にあります(建築AI経営研究会調べ・回答53名、リフォーム産業新聞1706号10面)。
専任がいない会社で、AI導入を進めるのは誰か
段取りは、役員か兼務の担当者が持ちます。社長が持つのは、最後の確認の1工程と、やめる判断だけです。
私が見てきた範囲では、20〜50名の会社にAIの専任はほとんどいません。IT担当も兼務のことが多いです。よく言われる「小さく試す」を、誰が回すのかという話がここです。
社長が全部を抱えると、どこで止まるか
社長が日中、現場と打合せに出ている会社は多いと思います。会社に戻ってから、見積や発注や承認が回ってきます。
そこにAIの検証まで積むと、作業は夜に回ります。夜に回った作業は、翌週に繰り越されます。止まる場所は道具ではなく、日程のほうです。
だから、社長に残すのは1工程だけにします。出てきたものを見て確定させる。この単位です。試す日程を決め、数字を集め、報告の形を作るところは、社長の手元から外します。
兼務の担当者に渡すとき、何を渡さないか
渡すのは段取りです。3つあります。
- いつ試して、いつ見直すかの日程
- どの数字を集めるか(次の章で3つに絞ります)
- 誰に、どの形で報告するか
渡さないものも、はっきりさせておきます。顧客名や金額をAIに入れてよい範囲の判断、やめる判断、費用の決裁です。この3つは、決裁権のある人が持ちます。
ここを渡してしまうと、兼務の担当者が止まります。判断できないものを抱えたまま、「詳しい人」として社内の相談だけが集まるからです。本来の仕事が遅れ、推進は後回しになります。
「でも、兼務の人に時間なんて空いていない」。そう思われますよね。私もそう思います。だから渡すのは、空いた時間に考える仕事ではなく、日付の決まった段取りだけにします。
外の人と組む所と、社内で続ける所を分ける
社内の一人で完結させる必要はありません。分けるのは、外の人と組める所と、社内の誰かがいないと残らない所です。
作業を分けて手間の中心を見つける所は、外の人と組めます。社外の目が入ると、「どの工程が中心か」を名指ししやすくなります。
続ける場のほうは、外からは作れません。研修のあとに使い方を持ち寄る場が残るかどうかは、社内の誰かが日程を押さえるかで決まります。役員の方が持つのは、こちらです。次の章で見る2社も、この2つが分かれていました。
同じ規模の会社は、AI導入でどの作業をどの順序で変えたのか
変えたのは、打合せの議事録と、請求書の名前付けです。どちらも全社に一度に広げず、1つの作業を変えてから次へ進んでいます。
ここで見ていただきたいのは、削減した時間の大きさではありません。手をつけた順序です。
現場調査の打合せを、録音と要約に置き換えた例
冒頭の東京都のリフォーム会社です。現場調査の打合せの議事録を、複写式シートへの手書きと後からの編集(約1時間)から、録音とAIの要約による即時の共有に変えています(リフォーム産業新聞1695号9面・2026年5月4日発行)。
同紙によれば、創業2015年・従業員19人で、年間の工事は250〜300件です。あわせて全従業員にAI研修を行い、月1回の会議で全員がAIの活用例を発表しています。変えた1つの作業と、使い方を持ち寄る場が、どちらも社内にあるという例です。
請求書の作業を分けてから、道具を作った例
大分市の工務店・カワノの例です。月100件を超えるスキャン請求書の名前付けと、工事台帳との突合とダブルチェックに、数日がかりの時間を取られていました(リフォーム産業新聞1705号3面・2026年7月20日発行)。
同連載によると、この会社は外部の支援者と一緒に業務を分け、「真の敵はリネーム」と手間の中心を名指ししてから、業者名・邸名・金額・消費税を抽出して一括で名前を付け直す形を作っています。工事台帳の全自動化からは入っていません。
自社に重ねるとき、私が見るのはこの順序です。作業を分けたか。1工程に絞ったか。そのあとで全員の学ぶ場を作ったか。従業員の人数や削減時間が自社と違っても、この順序は持ち帰れます。
あわせて読みたい
リフォーム会社・工務店の議事録はAIで自動化できる──「後で清書1時間」を「確認だけ」にする方法費用と手間は、どこを見て判断するか
見るのは3つです。覚える時間、確認する時間、やめるときの手間。道具の利用料は、このうちの一部にすぎません。
金額の相場も、制度の条件も、この記事では扱いません。社長に出すときに抜けやすいのは、相場ではなく社員の時間のほうだからです。
利用料のほかに、何が費用になるか
覚える時間。 社員が使い方を覚える時間です。研修の時間と、現場で戸惑う時間の両方が入ります。これは給与として出ている費用なので、自社の人件費に置き換えて書けます。
確認する時間。 AIが出したものを人が見る時間です。最初の1〜2週間は、人が直す前提で動かすほうが現実的です。ここを0で見積もると、現場から「かえって手間が増えた」と言われます。
やめるときの手間。 入れたデータの行き先、作った社内の約束、覚えてもらった手順の作り直しです。やめる条件を先に決めておく理由は、ここにあります。
道具探しと制度探しから始めた会社が止まる場所
制度から入ると、順番が入れ替わります。どの作業を変えるかが決まる前に、対象になる道具を探し始めます。
そうなると、申請の都合で導入の時期が決まります。使う場面を決めるのは後回しです。先ほどの2社が先にやっていたこと、つまり作業の名指しが、最後まで空いたままになります。
静岡県浜松市のリフォーム会社・LIFEFUNDの例が、同じ論点で参考になります。リフォーム産業新聞1706号10面(2026年7月27日発行)によれば、資材の値上げや受注停止のメールをAIに読み込ませ、Claudeで社内共有のダッシュボードを作っています。個人が調べて終わる形ではなく、社内で開ける画面として残しています。残るものが社内の画面なら、担当者が代わっても使われます。
効果は何で測るか──始める前に記録しておく数字
始めたあとでは比べられません。前の状態を、3つだけ書き留めておきます。
社長への説明が「便利そうです」で終わるのは、前の状態が残っていないからです。記録は、始める前の1回で足ります。
記録しておく3つ(1件あたりの時間・月の件数・やり直しの回数)
1件あたりの時間。 その作業1件に、今どれだけかかっているか。ストップウォッチは不要で、担当者の申告で十分です。
月の件数。 月に何件発生しているか。件数が少ない作業は、時間が短くなっても会社の数字に出ません。
やり直しの回数。 月に何回、作り直しや訂正が出ているか。お客様との「言った言わない」で戻ってきた回数も、ここに入ります。
この3つがあれば、2週間後に同じ3つを測るだけで比較ができます。時間を食っている工程をどう見つけるかは、事務作業を分解して時間を測る手順にまとめています。
3つ目に「やり直しの回数」を入れた理由──私の失敗から
正直に書きます。自社の会議の議事録は、録音から下書きまで自動で作る形で回しています。その中で、出来上がった議事録に、話したはずの内容が入っていなかったことがありました。録音そのものが欠けていたのです。
あのとき時間だけを測っていたら、記録に残るのは「速くなった」だけでした。実際に増えていたのは、作り直しのほうです。3つ目にやり直しの回数を置いているのは、この一件があるからです。
議事録まわりで何がどうつまずくかは、議事録AIを自社で回したときの失敗に詳しく書きました。確認して確定させる工程を人の側に残しているのも、同じ理由です。
「確認するなら、結局同じでは?」。そう思われるかもしれません。手間の比較で言えば、確認は残ります。それでも、白紙から書くのと、下書きを直すのとでは、取りかかりやすさが違いました。
社長に説明するときの組み立て
効果の話より先に、やめる条件と確認の担当を言います。順番は、やめる条件、確認の担当、記録する3つの数字、そのあとに期待する変化です。
役員の立場で一番きついのは、「何のためにやったのか」と後から問われることだと思います。やめる条件を先に言っておくと、その問いが先に片づきます。
社長から出やすい3つの質問への答え方
社長に持っていくと、質問はだいたい3つに集まると私は考えています。先に答えを用意しておきます。
①「情報漏えいは大丈夫なのか」
答えるのは、道具の安全性ではなく社内の約束です。顧客名・住所・金額・図面を、どこまで入れてよいかを先に決めます。入れてよい範囲が1枚の紙になっていれば、社長の質問はそこで止まります。提供元ごとの設定や契約の条件は、導入を決める段で、各社の公表情報を見て確認します。
②「ほかの会社はやっているのか」
導入率の数字で答えないほうがよいと考えています。公的な調査と、業界団体や民間の自主調査では、対象も母数も違います。並べて出すと、社長の質問が数字の出どころの話に移ります。
代わりに出すのは、同じ規模の会社が何をどこまで変えたかです。この記事で引いた2社なら、従業員19人の会社が打合せの議事録を変えたこと、月100件超の請求書の名前付けを一括にしたこと。業界紙の紙面として、そのまま社内で回せます。
③「補助金や支援の制度は使えるのか」
金額・補助率・申請の時期は、この記事では扱いません。公募ごとに変わるので、制度の公表情報で確認するのが確実です。
そのうえで1つだけ。制度から入ると、作業が決まる前に対象の道具を探し始めます。順番は、作業を決める、試す、記録する、それから制度を見る。制度は入口ではなく、決まったあとの手当てとして置きます。
まとめ
- 道具より先に決めるのは、どの作業か・誰が最後に確認するか・いつ見直すか
- 段取りは役員か兼務の担当者が持ち、社長は確認の1工程とやめる判断だけを持つ
- 兼務の担当者に、入れてよい範囲の判断・やめる判断・決裁は渡さない
- 業界紙の2社は、1工程を名指ししてから次へ進んだ。作業を分ける所は外の人と組み、続ける場は社内の誰かが日程で支えていた(1695号9面・1705号3面)
- 費用は利用料ではなく、覚える時間・確認する時間・やめるときの手間で見る
- 始める前に、1件あたりの時間・月の件数・やり直しの回数を記録しておく
- 社長への説明は、やめる条件→確認の担当→記録する数字→期待する変化の順
今週のうちにできることは、2つだけです。選んだ1工程について、1件あたりの時間・月の件数・やり直しの回数を1回記録すること。そして、見直す日をカレンダーに日付で入れること。
この2つが手元にあると、社長との話は「便利そうです」の先に進みます。

