④DX導入の入口

建築業・リフォーム会社のAI導入は何から始めるか──最初の30日でやるべきこと

建築業・リフォーム会社のAI導入・DXは「毎週必ず発生する、判断のいらない作業」を1つ選ぶところから始めるのが現実的です。ツール選びから入ると止まりやすい理由と、最初の30日の進め方を、自社運用の実体験と業界紙の事例をもとに書きます。

執筆 深瀬雅己読了 7

「うちみたいな会社でも、AIって何から始めればいいんですかね」

展示会や研修の現場で、建築・リフォーム会社の経営者の方から、よくいただく質問です。株式会社Polestar AIで建築・リフォーム会社のAI導入支援をしている深瀬です。

先に結論を書きます。私はいつも、こうお答えしています。

「ツールを選ぶ前に、"毎週必ず発生していて、判断のいらない作業"を1つ挙げてください」

「また新しいツールの話か」。そう思われたかもしれません。その感覚は当然だと思います。AI導入の話は、製品名から始まりがちだと私も感じています。この記事はその逆から書きます。

先に、この記事が向かない人をお伝えします。 「これを入れれば人手不足そのものが解決する」という答えを探している方には向きません。業界専用システムの製品比較も、料金の一覧も、ここでは扱いません。扱うのは、汎用のAIを使って、社内で試せる範囲だけです。

その前提で、なぜこの順番なのか。そして最初の30日で何をするのか。自社で実際に回している運用と、業界紙に載った工務店の事例をもとに書きます。なお、ここで挙げる他社事例は業界紙に掲載された個別企業の取り組みであり、業界全体の傾向を示す統計ではありません。

AIに最初に任せる作業は、どう選ぶか

決めるのは、ツールではありません。任せる仕事です。

ツールから決めると、契約したあとで「何に使うか」を探す順番になります。順番が逆です。

条件は3つです。

  • 毎週(できれば毎日)必ず発生する──頻度が低い作業は、効果が出ても実感できません
  • 判断がいらない──正解が決まっている作業は、失敗してもすぐ気づけます
  • 誰のスキルも上がらない──その作業を人がやり続けても、会社に何も蓄積されません

建築・リフォーム会社なら、具体的にはこのあたりです。

作業よくある現状
打ち合わせ・会議の議事録メモを後で清書する。忙しいと後回しになり、記憶が薄れる
請求書・書類の整理とリネームファイル名を1件ずつ手で直す
現場写真の整理・報告書の下書き撮った写真の仕分けと文章化に時間がかかる
問い合わせメールの返信下書き同じような文面を毎回ゼロから書いている

この4つのうち、御社でいちばん時間を取られているのはどれでしょうか? 議事録でしょうか? それとも、請求書でしょうか?

先行する工務店がAIに最初に任せたのは、どんな作業か

大きな仕組みではありません。担当者の時間を実際に奪っていた、たった1工程です。

リフォーム産業新聞の連載「挑め!生成AI活用の壁」では、大分市の工務店が最初にAIへ任せた仕事が紹介されています。月100件を超えるスキャン済み請求書の、ファイル名変更です。

「ファイル名を直すだけ」と書くと、地味な作業に見えます。でも、実際の画面を思い浮かべてみてください。並んでいるのは、開くまで中身の分からないファイルの列。どれがどの業者で、どの現場のものか、名前からは判別できません。それを1件ずつ開いて業者名を確認し、名前を付け直す。さらに工事台帳と突き合わせ、ダブルチェックする。同連載によれば、この会社では、この一連の作業に数日がかりだったといいます。

工事台帳の全自動化のような目標を、先に置かなかった点が要点です。手を付けたのは、月100件超を1件ずつ開いていた、その1工程だけでした。

「でも、それでは結局、小さな話で終わりませんか?」。そう思われるかもしれません。私も最初は、もっと大きな仕組みから入るものだと考えていました。順番が逆だったと、今は思っています。

同連載の第2回では「100点より65点を目指せ、大きな風呂敷より小さな風呂敷を」という方針が紹介されています。私も、この順番で進めるほうが続けやすいと考えています。

この事例の詳細と、自社で同じ工程を見つける手順は時間を食っている工程の特定手順にまとめています。

なぜツール選びから始めると失敗するのか

使われないまま、契約だけが残るからです。

私がご相談を受けてきた中で、うまくいかないパターンは大きく3つでした。

うまくいかない理由①「ツールさえ入れれば、誰かが使ってくれるはずだ」──工務店のAI導入でつまずくところ

「業界向けのシステムを契約したが、誰も使っていない」というご相談があります。任せる仕事が決まっていない状態でツールを買うのは、間取りが決まる前に建材を発注するようなものです。御社が最後に契約したツールは、「何に使うか」が先に決まっていたでしょうか?

うまくいかない理由②「パソコンに強いあいつに任せておけばいい」──建設業のAI活用を1人に背負わせると

若手やパソコンが得意な社員に「AI担当」を任命して終わり、というパターンです。担当者が忙しくなると止まりやすくなります。AI導入は特定の誰かのスキルではなく、「この作業はAIに任せる」という会社の決め事にしておく必要があります。その決め事を、いま社内の何人が言えるでしょうか?

うまくいかない理由③「間違いが出るようなものは、仕事では使えない」──リフォーム会社のAI導入で立ち止まる場面

「AIの出力に誤りがあったから使うのをやめた」という声もあります。そう判断されるのは当然だと思います。ただ、最初の1〜2週間は、AIの出力を人が確認して直す前提で運用してください。白紙から書き始めるのと、下書きがある状態から直すのと、どちらが取りかかりやすいでしょうか?

AI導入の最初の30日を、どう進めるか

やることは3つだけです。棚卸し15分、1つを2週間、時間を測って次へ。この順番で進めます。

ステップ1:作業の棚卸し(所要15分)

紙に書き出すだけです。「毎週必ず発生していて、判断がいらなくて、誰のスキルも上がらない作業」を、思いつく限り挙げてください。御社では、いくつ挙がるでしょうか? 先ほどの表の4つ(議事録・書類整理・写真整理・メール下書き)から選ぶだけでも始められます。

ステップ2:1つだけ選んで、2週間まわす

選んだ作業1つを、ChatGPT・Claude・Geminiなどの汎用AIで2週間だけ運用します。ポイントは1つに絞ることです。

「1つだけでは、たいして変わらないのでは?」。そう思われますよね。私も、同時にいくつも試したくなる気持ちはよく分かります。ただ、同時に3つ始めると、全部が中途半端になります。

有料プランの価格はここでは書きません。提供各社が公表していて改定もあるため、契約前に各社の公表価格を直接確認してください。

たとえば議事録なら、打ち合わせの録音(スマホで十分です)をAIに渡して要点をまとめさせ、人が確認して直す。これだけです。

ステップ3:時間を測って、次の1つへ

2週間たったら、「その作業に以前かけていた時間」と「今かかっている時間」を比べてください。差は出たでしょうか? 差が見えたら、ステップ1のリストから次の1つを足します。この繰り返しが、遠回りに見えていちばん確実です。

支援会社が自社で最初に自動化したのは何か

会議の議事録です。

打ち合わせの録音から文字起こしと議事録の下書きが自動で作られる仕組みを数カ月運用していて、私がやるのは内容の確認だけです。その後、メール返信の下書き、予定の整理と1つずつ広げました。

順調なことばかりではありません。会議のあと、いつものように出来上がった議事録を開いたら、話したはずの内容がそこに入っていない。録音そのものが欠けていました。固有名詞が別の言葉に変換されていたこともあります。議事録まわりのつまずきについては議事録AIを自社で回したときの失敗で詳しく書いています。

それでも1つ目で「確認するだけでいい」という感覚をつかめたことが、2つ目に進む理由になりました。ただし私の会社は少人数で、現場工事を持っていません。同じ手順が、工事部門を抱える会社でそのまま同じように機能するとは限りません。

よくある質問

Q. うちはITに弱い社員ばかりですが、できますか?
今の生成AIは日本語で頼むだけで動きます。パソコン操作より、日々の作業を言葉で説明できる現場経験のほうが役に立つ場面が多いと感じています。

Q. 情報漏えいが心配です
もっともな心配です。有料プランには、入力内容をAIの学習に使わせない設定が用意されているものがあります。ただし、設定の名称や適用条件は提供元ごとに異なります。契約前に各社の公表条件を確認してください。そのうえで、「顧客名・金額を入れてよい範囲」を社内で先に決めておくことが前提になります。

Q. 景気も悪いし、投資する余裕がありません
正直な疑問だと思います。リフォーム産業新聞の2026年5月の景況感調査では、売上が前年より「良い」と答えた会社は29%で、前月から48ポイント下がっています。厳しい時期だからこそ、大きな投資を伴わない範囲で、時間の使われ方を見直す価値があると考えています。

まとめ

  • 決めるのはツールではなく、任せる1つの仕事
  • 条件は「毎週発生・判断不要・スキルが上がらない」
  • 業界紙の工務店も、請求書のリネーム1工程から
  • 最初の30日は、棚卸し15分→1つを2週間→時間を測る
  • 最初の1〜2週間は、人が確認して直す前提で

自社のどの作業から始めるべきか迷う場合は、下の1分診断で「AI社員が最初に役立つ場所」を確認してみてください。

出典

  1. リフォーム産業新聞 電子版・連載「挑め!生成AI活用の壁、工務店の明日を創る奮闘記」vol.4「請求書を自動でリネーム、膨大な単純作業と決別へ」(1705号3面・2026年7月20日発行)
  2. リフォーム産業新聞 電子版・連載「挑め!生成AI活用の壁」vol.2「100点より65点」
  3. リフォーム産業新聞 電子版・リフォーム市場景況感調査 2026年5月(1703号21面)

WRITTEN BY

深瀬雅己

株式会社Polestar AI 代表取締役

奈良高専で電気工学を学んだ後、パナソニックを経てリフォーム営業・インサイドセールスを経験。SHIFT AI認定講師としてのべ3,000名以上にAI活用を指導し、Claude Codeで業務効率化アプリを100個以上自作しながら、建築・リフォーム会社へのAI導入支援を行っています。

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