②見積もり・積算業務

「話しただけで見積ができる」は本当か──リフォームの見積・積算AIデモの中身を公開します

「話した内容がそのまま見積になるのか」という疑問に、自作の音声→見積書デモの実装から答えます。AI抽出と正規表現の二段構え、品番を言わなかったときに既定単価で金額まで自動計算される仕様、拾える工種の範囲まで公開します。

執筆 深瀬雅己読了 8

「現調で話した内容を、そのまま見積にできないか」

AI導入のご相談をいただく中で、見積もり・積算はこうした形で話題に上がる領域のひとつです。

先に結論を書きます。そのままは出せません。音声から自動で組み上がるのは、項目と数量が並んだ見積の「たたき台」までです。

株式会社Polestar AIは、建築・リフォーム会社向けにAI導入支援を行っています。その中で、音声から見積書のたたき台を組み立てるWebデモを自社で開発しました。7月29日・30日のリフォーム産業フェアで実演します(フェアについてはリフォーム産業フェア2026の記事にまとめています)。

商品化されたパッケージではありません。実装の中身まで自分で把握しているデモです。だからこの記事では、実際に何をやっていて、何をやっていないのかを、コードの実装に沿って公開します。

なぜ、そこまで書くのでしょうか? 自慢したいから? 売り込みたいから? どれも違います。デモ映像で分かるのは「動くこと」だけだからです。自社で使えるかどうかは、動かない場所を見ないと決まりません。

先に、この記事が向かない方もお伝えしておきます。「どの見積AIが一番よいか」という製品比較を期待して読まれると、がっかりされると思います。ここで扱うのは、自社で作った1つのデモの中身だけです。逆に「AIに任せたとき、どこが人の仕事として残るのか」を知りたい方には、そのまま材料になるはずです。

音声から作った見積は、そのまま顧客に出せるのか

出せません。このデモが自動生成できるのは、項目と数量が並んだ見積のたたき台までです。

画面に何が出るか、想像してみてください。行がきれいに揃った表。左から工事項目、規格・仕様、数量、単位、単価、金額。いちばん下に、太字の合計金額。手書きの野帳とは比べものにならない見た目で出てきます。

それを見て「合っているのだろう」と感じる。当然だと思います。私も、はじめて自分の出力を見たときは同じでした。

ですが、その合計金額は何を根拠にした数字でしょうか?

私がいちばん危ないと考えているのは、ここです。理由はこのあと実装に沿って説明しますが、いちばん大きいのは「言われなかった情報を、既定値で埋めて金額まで出す」という仕様です。

分からないまま導入すると、「もっともらしい金額が出てくるのだから、正しいのだろう」という前提で使ってしまう余地が残ります。

AIと規則ベースは、どちらが本番で動いているのか

「AIと書いてあるが、中身は決められた言い回しの寄せ集めではないのか?」

そう思われますよね。私も、他社の説明を聞くときはまずそこを疑います。

このデモの答えを先に書きます。話した内容から「どの工事を、どこに、どれだけ」を取り出す部分は、AIモデル(gpt-5-mini)による抽出を一次経路にしています。AIで取り切れなかった場合にだけ、あらかじめ書いた正規表現(決められた言い回しのパターン照合)に処理が落ちる、という二段構えです。

「本番は結局ルールベースで動いていて、AIは看板だけ」という作りではありません。本番環境でもAIのキーが必須で、これが欠けると音声入力の処理そのものが通らない構成になっています。

では、なぜ二段構えにしたのでしょうか?

理由は、会話の途中の言い直しです。メジャーを片手に、施主と現場を回りながらの現調を思い出してください。「やっぱり床は張り替えなしで」「さっきの浴室はやめた」——普通に起きることです。

こうした前言の取り消しは、決められた言い回しを照合する規則ベースの方式では原理的に扱いづらい部分です。

そこで抽出プロンプト側で処理するように作り、2026年7月19日に実際に動かして検証しました。「やっぱり床は張り替えなしで」と言い直した音声を入力し、出力の見積から床の行が消えることを確認しています。

品番を言わなかったとき、金額はどう埋まるのか

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。

このデモは、品番が指定されなかった場合、既定の単価にフォールバックして、金額・小計・諸経費8%までを自動計算して出します。「品番が不明なので空欄で残す」という仕様は入れていません。

つまり画面に出てくる金額は、「その品番で見積もった金額」ではなく「品番が決まっていない前提で、既定単価を当てはめた金額」であることがある、ということです。しかも、どちらの場合も同じように整った表として出てきます。表を見ただけでは見分けがつきません。だから人の確認が必須という結論になります。

「確認するなら、結局手で作るのと同じでは?」

そう思われますよね。私も最初はそう考えていました。違うのは、見るべき場所が決まっていることです。

しかも単価の根拠は工種によって性質が違います。

工種単価の性質
床材・壁紙定価ベース(1㎡あたり)
塗料実勢価格ベース(1㎡あたり)
設備標準工事費込みのデータベース価格

同じ1枚の見積に、性質の違う3種類の数字が並びます。人が最後に見るべき場所は、まさにここです。

御社の見積で、単価の出所をその場で説明できる行は、どのくらいあるでしょうか? 全部でしょうか? それとも半分でしょうか?

なお、この既定単価は当社がデモ用に用意した時点の値です。資材価格が動けばそのぶんズレます。自社の仕組みとして使うなら、既定値をだれがいつ更新するのかまで決めておく必要があります。ここは技術ではなく運用の話です。

このデモが最初から見に行っていないものは何か

「限界」というより、意図的に対象外にしている範囲です。

拾える工種は4つだけ

現在このデモが抽出できるのは、外壁・床・壁紙・浴室(および案件名と築年数)だけです。ここに定義していない工事は拾いません。

たとえば会話の中で洗面台の交換に触れても、たたき台には出てきません。「言ったのに入っていない」のではなく、そもそも対象外なので最初から見に行っていない、という挙動です。

どの経路で作られたかは残らない

そのたたき台がAI経路で作られたのか、規則ベースに落ちたのかは、処理結果には付いてきます。ただし永続的なログには残していません(メモリ上に保持しているだけです)。

デモとしては割り切った作りです。ただ、業務で使う仕組みを選ぶときは「あとから経緯をたどれるか」は見るべき点だと考えています。

私自身が先につまずいた場所

もう一つ、自分の失敗を書いておきます。当社では会議の録音から議事録の下書きを作る仕組みを数カ月運用してきました。その中で、録音が欠けていた会議がありました。言葉が誤って変換されていた箇所もありました。

音声を入口にする以上、素材そのものが欠けることがある。頭では分かっていたつもりでした。ですが、録音が欠けていると気づいたときの感覚は、想像とはまるで違いました。当社の議事録運用で起きたことは議事録AIの記事に書いています。

音声や写真からの見積は、他社ではどこまで来ているのか

<!-- 図版プレースホルダ: 「話す入力」と「図面を撮る入力」の比較図(入口/対象範囲の2軸) -->

「うちだけ出遅れているのではないか」

そう感じておられるかもしれません。その感覚が当たっているかどうか、業界紙で報じられた実例で確かめてみます。

音声を業務の入力にすること自体は、すでに珍しくありません。リフォーム産業新聞では、リシンクスが現地調査の録音をAIで要約し、約1時間で議事録として即時共有していると報じられています。ただしこれは議事録であって、金額を出す話ではありません。

金額まで踏み込んだ製品も出ています。同じくリフォーム産業新聞では、パナソニック ハウジングソリューションズの「写真de AI積算アプリ」が紹介されています。図面をスマートフォンで撮影すると、約5分で見積書と提案ボードが出力されるもので、対象は内装ドア・収納・床材・巾木・廻り縁。2カ月で延べ約1,000人・約2,000件の利用があったと報じられています。新人でもたたき台を作れることによる教育効果にも触れられています。

図面を撮る、約5分待つ。それだけで提案ボードまで出てくる。ここまで来ています。

念のため明記しておきますが、当社のデモは写真からの積算はしていません(入口は音声と手入力テキストで、図面画像は扱いません)。同じ「AIで見積」でも、入口(音声か、図面か)と対象範囲(どの工種か)がまったく違います。比較検討される際は、この2点を先に見ていただくのが確実です。

見積・積算をAIに任せる前に、自社で決めておくことは何か

出てきた金額のどこを人が見るのか、御社ではもう決まっているでしょうか?

ご相談を受けてきた中で、うまくいかないときの入り方には型があります。三つ挙げます。

うまくいかない理由①「AIが出した金額なのだから、たぶん合っているはずだ」

人が見る場所を先に決める──「品番が指定されていない行」「数量が会話に出てこなかった行」など、確認ポイントを運用として固定する。ここが決まっていないと、出てきた数字を評価できません。

うまくいかない理由②「単価は、どこかに正しいものが入っているはずだ」

単価の出所を決める──定価なのか、実勢価格なのか、標準工事費込みなのか。ここが混ざったまま自動計算させると、金額の意味が説明できなくなります。

うまくいかない理由③「せっかく入れるのだから、全部の工事で使いたい」

対象を先に絞る──全工種を狙わず、頻度の高い工種から始める。範囲が狭いほど、外れたときの原因を追いやすくなります。

仕組みを選ぶより先に、自社の見積のどこを人が握るのかを決めるほうが早いと考えています。

まとめ

  • 自動で出せるのは「たたき台」まで。金額の最終責任は人
  • AI抽出が一次経路、取り切れないときだけ規則ベース
  • 言い直しへの追随は2026年7月19日に実測で確認
  • 品番を言わなければ既定単価で諸経費8%まで自動計算
  • 拾えるのは外壁・床・壁紙・浴室の4工種のみ
  • 対象外の工事は「漏れ」ではなく最初から対象外
  • 他社は音声も図面写真もすでに実用化。入口と範囲で比較

自社の見積・積算のどこからAIに任せられそうか整理したい場合は、下の1分診断で現在地を確認してみてください。

出典

  1. リフォーム産業新聞 電子版・パナソニック ハウジングソリューションズ「写真de AI積算アプリ」(1705号12面・2026年7月20日発行)
  2. リフォーム産業新聞 電子版・リシンクスの現地調査録音からのAI要約議事録(1695号9面・2026年5月4日発行)

WRITTEN BY

深瀬雅己

株式会社Polestar AI 代表取締役

奈良高専で電気工学を学んだ後、パナソニックを経てリフォーム営業・インサイドセールスを経験。SHIFT AI認定講師としてのべ3,000名以上にAI活用を指導し、Claude Codeで業務効率化アプリを100個以上自作しながら、建築・リフォーム会社へのAI導入支援を行っています。

FREE DIAGNOSIS

まずは無料のAI活用診断(1分)から

リフォーム・建築会社のどこにAI社員が役立つか、1分の質問でわかります。診断後にしつこい営業連絡はありません。

← ブログ一覧へ戻る